はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
2017年10月28日。土曜日。
バイトで稼いだお金が入りギターを1本買うことにした。
「安かったから」という理由だけで3万くらいで買ったエピフォンのファイヤーバードを持っていたが、やはりギブソンのフライングVも欲しくなる。
ハードオフ天正寺店にフライングVが6万円ほどで販売されていた。2017年6月にそれを見つけた俺はそれを買うためにバイトを始めた、というのは嘘になるかもしれない。
家族や教師に「一度バイトしてみたら」と言われて働いただけだ。向いていなかった。
ギターが売り切れていないか毎週確認しに行っていた。28日の数日前も。
そしてフライングVの隣にtalboというギターがずっと置いてある。確かGLAYのhisashiや元P-MODELの平沢進、有頂天にいたハッカイやメトロノームの福助が使っているのを動画で見たことはある、が全く買うつもりはなかった。
これだけ知っているギターでもとにかくフライングVに惚れていた。
ピックガードのミラーは割れているし。音も正直ロックっぽくないし。
後になって知ったがなんとトラスロッドが限界。
とりあえずフライングVを買おう。そう思っていた。
とりあえず7万を財布に入れて早速天正寺店へ向かう。ギターコーナーに行き、「あれをください」という予定だった。が、無くなっていた。
ショックだった。なんで数ヶ月も、そして数日前も残っていたのに。
フライングVが他にあるか探す。ない。他のギブソンのギターは10万以上する。
ここは一度貯めるべきか。ギターコーナーに目をやる。talboがこっちを見つめている。そして鏡に俺が写っていた。
talboに心を落とされた。
とりあえずtalboを取ってもらい鳴らすことにした。
天正寺店の試奏スペースは仕切りがある。アンプはマーシャル。
電源を入れ鳴らす。家で演奏するときと明らかに違った音がした。
今思えば明らかにアンプが良かっただけな気もする。
でも、そのギラギラな音と見た目に俺は恋をした。
5万を出す。
Talboを買ってしまった。
店から出ると外は雨が降っていた。ギターに出来るだけ雨がつかないように小走りで車に戻る。車の中でギターをずっと抱えていた。
「本当にこれを買ってよかったのだろうか」というモヤモヤした気持ちも抱えていた。衝動買いだからだ。
でも、今思えば購入して良かった。
家に帰り、フェンダーのアンプで鳴らした。店で鳴らした時とは音が違った。当たり前だ。
でも、眺めていると心の中のモヤモヤした気持ちもなくなっていた。
ピックガードのミラーには笑顔の俺が反射していた。
完。